CEATEC JAPAN 2010 at 幕張メッセ 2010年10月5日(火)~9日(土)

ユーティリティ

USメディアパネル・イノベーションアワード選考の舞台裏

フリーランスジャーナリスト 津山恵子
 

「えっ。それじゃ、上司を呼びます」「そうですか。がんばってよかった!」―。
米国人ジャーナリストが選ぶ「USメディアパネル イノベーションアワード」でファイナリストとなった各企業に盾を渡しに行くと、担当社員から喜びの声が飛び出た。アワードの説明を聞かずに、説明員全員が携帯電話で朗報を伝え合っている企業もあった。現場の励みとなるこのアワードは一体、どうやって選ばれるのか、何が着目点なのか?今年の審査員となった7人の米国人ジャーナリストに密着し、その舞台裏を覗いてみた。
 7人は、ニューヨーク、サンフランシスコなどから訪れている、ハイテク・家電・コンピューター分野のベテラン記者ばかり。全員が、CEATEC一般公開の2日前から5日間みっちり取材。その最初の3日間は、イノベーション賞に値する製品を探して会場を歩き回り、ファイナリスト、そしてグランプリ(最優秀賞)を贈る製品をしぼる会議で熱い議論を交わす。

 4日の月曜日、7人が最初の会合を開き、イノベーション賞の8分野と特別賞(今年はスマートグリッド/グリーンIT)の計9分野について、誰が中心になって製品を審査するのか担当を決める。これを決めるのは、各分野の受賞者が決まった際、授賞理由をCEATECのニュース向けに執筆したり、授賞式でコメントを述べたりする必要性があるからだ。

 審査委員長となるGreentech Media編集長のマイケル・カネロス氏はいつも手際よく、ミーティングを進行。目配りの利くカネロス氏は、特別賞を担当するが、「家電のことならなんでも聞いて」という人物だけに、知識が幅広く、ほかの審査員の相談にのる。

 例えば、今年「デジタルヘルス分野」担当となったのは、Consumer Electronics Dailyのマーク・シーヴィ氏。彼が同分野の勝者に一押ししたのは、富士通の「DNA材料を素材にしたバイオセンサー」。しかし、彼がいくら「すごい。革新的」と話しても、ほかの審査員には具体的にどこがすごいのか分からない。そこで審査員室を出て、ブースを見に行くことになった。

 しかし、ブースに行っても、あるのは小包ぐらいの大きさの検査機と、パソコンの画面にグラフが表示されているだけ。マークは「説明の仕方が分からないけど、これが小さくなったら、すごいことになるんだ」と言う。そこで、説明員の人を呼んだ。その場をしきったのは審査委員長カネロス氏だ。ポケットから携帯電話を取り出し、「将来、この検査機はこれぐらいの大きさになるんだね?」。「なります」と緊張で汗だらけの説明員。「世界で初の技術なんだね?」「そうです!」「どこで使われる技術なの?」「えーと」「研究所でしょ?それから病院とか農業試験場とか」「はい、そうです」。「うん、分かった」とカネロス氏。「みんな、聞いて。これが小型化すると、病気の検査が早く手軽にできるようになるんだ。富士通はいろんな部品を作っているから、こういうことができるんだ」。最初に推薦したマークは、「とにかくすごいと思ったんだ」を繰り返している。カネロス氏は「じゃ、マーク、この製品のコメントは僕が書こう」と締めくくった。

 初日は、各企業から自薦された製品を中心に回り、さらに2日目の内覧日は、自薦製品以外でも革新性がある製品を探して歩き回る。記者たちの質問は矢継ぎ早でしかも専門的だ。「これの言語はなんで書かれているの?」「この製品は某社が6月に出してるじゃない。どこが違うの?」。説明に納得できると、「オー、マイガッ(すげえ)」。関心分野が異なるため、製品のどこが優れているのか分かった記者が、ほかの記者に説明する。

 内覧日の夕方、各部門担当の記者がアワードに推薦したい製品をそれぞれ紹介し、ホワイトボードに書き出していく。このミーティングの口火を切ったのは、米国で大人気のハイテク関連専門ニュースサイト、Engadgetの記者で、携帯電話と秋葉原が大好きなジョシュア・フルリンガー記者。

 「みんな、いいかい。キーワードはInnovation(革新)と Revolution(革命)だ」。そんなにたくさん、「革新」と「革命」が転がっているのだろうか?「僕が選んだのは・・・」と、ジョシュアは担当するホーム・エンタテインメント分野の製品をいきなり8点上げた。こうして、それぞれの分野ごとにものすごいスピードで製品名が上げられていく。みな、自分が見たものを「一押し」したくてしょうがないからだ。根っからのハイテク好き記者がそろっている。自分の担当以外の分野にも、「僕が一押ししたいのは・・・」と付け加えていく。この日、彼らが会場を回っていた時間は約4時間ぐらい。その短時間に、互いに「どうやって見つけてきたの?」というようなニッチ―製品も飛び出す。

 次に、各部門ごとにファイナリストを3~4点に絞り込む。ここは、喧々諤々だ。「待って。その製品をソフトウェア分野から削るなら、モバイル分野に入れられないかなあ」と、好きな製品をほかの分野にねじ込もうとする記者もいる。こうして残った各部門3~4点のメーカーに、翌朝の6日朝、盾とアワード授賞式招待状が贈られたわけだ。

 そして6日午後、各部門の勝者を決める最終審査。ここで、もう一度、製品を確認に記者たちが会場に出ていくこともある。部門ごとに挙手の投票が行われ、グランプリは各部門の勝者から、それぞれの記者が3点に投票。ホワイトボードの製品名横に、「正」の字が書かれていく。

 大手ハイテク専門ニュースのサイト、CNetのスコット・アード記者はもの静かだが、細かいところに気がつく。グランプリの投票の際、記者が一人、会場に出かけていた。彼が帰って来たときに、黒板に書かれた投票数に影響されないで投票できるように、スコットはホワイトボードをひっくり返して、9つの製品名を最初から書いて、ほかの人の投票数が分からないようにすることを提案した。

 グランプリで上位3位に残ったのは、東芝の「グラスレス3Dレグザ」、パナソニックの「デジタル一眼レフカメラ用3Dレンズ」、TDKの「シースルーOLEDディスプレイ」だった。そして、挙手の投票による全員一致で、東芝の「グラスレス3Dレグザ」がグランプリに決まった。Engadgetのジョシュアは、「メガネがなくても見られる3Dテレビは、時代の流れだ」と締めくくった。

 これで終わりではない。ペットボトルの緑茶やソフトクリームを買いに行った後、記者たちは、パソコンを開いて、黙々とコメントの執筆にとりかかった。(了)

筆者プロフィール

津山恵子(つやまけいこ)/フリーランスジャーナリスト
ライター(ニューヨーク在住)、 日本外国人特派員協会正会員、 ニューヨーク外国人特派員協会正会員、共同通信社に約19年間勤務。福岡支局、長崎支局、経済部を経て、2003年からニューヨーク経済担当特派員。ルパート・マードック、テッド・ターナー、マクドナルド最高経営責任者、ジェームス・スキナーらをインタビュー、2006年にフリーに転向し、米国社会について幅広く取材。
2008年米大統領選挙では、アイオワ州の党員集会に始まる予備選挙から、2009年1月のオバマ大統領就任式まで1年間にわたり取材。
「AERA」、「文芸春秋」などに執筆。著書に「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)、「カナダデジタル不思議大国の秘密」(現代書館)などがある。

 

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